「あの子はどこにいるの??」
披露宴の最中、何度となく繰り返される質問。
「いま、お色直しで、着替え中ですよ」
「いま、きれいにおめかししていますよ」
「そう・・・・・・。」
20年前の日常とおなじ、孫の居場所を心配しているのだ。安心したのか、不安でいるのか??
12月中旬の風の強い日だった。
前日にお孫さんと一緒に、ご本人が生活している施設にご挨拶に伺った。
結婚式当日の流れと注意するべきこと、そして何よりもご本人はどういう方なのか?確認が必要だった。
施設に行くと、ちょうどロビーに集まり入所者のみなさんと一緒にいるところだった。
「おばぁーちゃん!!」
活発そうなお孫さんのうれしそうな顔と、眠そうなご本人の顔。
それでも孫娘の顔を見るとうれしそうだ。
自室に戻り、お孫さんと私たちが洋服の打ち合わせや、荷物など確認している間、少し不安そうな顔で眺めている。
挨拶をして帰るころには、疲れてベッドに横になってしまった。
明日は大丈夫かな?きっと大丈夫。
“ 明日は孫娘の大事な結婚式 ”
寒い日だったが、いい天気になった。
施設へお迎えにいくとちょうど着替えの介助をされている最中だった。
今日は体調がよさそうと施設の職員さん。よく眠れたようですとのこと。
「今日はよろしくお願いします」
・・・うなずくご本人。
「いい天気になりましたね」
・・・再びうなずく。
着替えも終わり、メイクは??
ご本人に確認すると「いいわ。」
でも、口紅だけでも・・というと「うん」とうなずいてくれた。
口紅を渡し、つけていただく。小さい口元にきれいなピンクを重ねていく。
うまくぬれたかな?顔が血色よくなっていく。髪をブラシでとかして準備完了。
鏡越しに凛とした表情になっていく。おばあちゃんの顔だ。
会場の控室の扉を開くと、一気に人が集まってくる。
「よくきたわねぇ、おばあちゃん!!」みんながうれしそうに取り囲んだ。
そうだ、みんなの“おばあちゃん”なのだ。
待ち時間はとても長く感じられた。長時間座っていることで、おしりが痛くならないか心配だった。
結婚式は忙しい、分刻みのスケジュールで動いていく。
チャペルの扉が開く、真っ白な世界だ。とても神聖な場所だと思えた。
これから2人で歩いていくにふさわしい場所。
無事に終われるようにと、緊張しながら見守る。
車いすのからの目線はどうだろう??
よく見えるかな?
おしりは痛くないだろうか?
新郎新婦ともに生き生きとした表情だった。 2人の誓いの言葉・・・
大きな声だった、おばあちゃんにもよく聞こえるように。
花嫁の両親は、こういう顔をして見送るのだなあ・・・と切ない気持ちになった。
自分の時はどうだったのだろうか??
花嫁の父親のさみしそうな顔、母親の安心した顔がとても印象的だった。
高齢ということもあり、そろそろ体力が限界にきていた。式場のスッタフに休憩できる場所を作ってもらえた。式場の配慮に感謝。
そうだ、私たちとは体力が違うのだ、96歳の体は、普段は疲れたら横になる生活。
すぐにソファに横になってもらう。しばらくすると目をつむり寝息をたてていた。
どんな夢を見ているのだろう?
「次の披露宴までゆっくり休んでくださいね・・・。」披露宴会場の脇で休んでいただく。寒くはないか、毛布がきちんと掛けられているか、心配は尽きない。
眠りから覚めるころには披露宴が始まっていた。にぎやかな音とともに目覚めると、豪華な食事が用意されていた。式場のスタッフの計らいで、休憩している場所に少しずつ運んできてくれたのだ。
お孫さんが厳選して選んだ食事のメニュー。
“ でも、食事が摂れないほど疲れ切っていたらどうしよう・・・。”
「お刺身が出てきましたよ」
「肉も召し上がりますか?」
「フルーツはいかがですか?」
「お茶は、あつくないですか?」
“よかった、食べてもらえた!” 思ったよりもたくさん食べてもらえた!!。
“少し元気が出ただろうか、体力が戻っただろうか” 心配は尽きない。
披露宴も終盤に入ったころに親族席につくことができた。家族全員が笑顔で迎えてくれていた。再びデザートを口に頬張る。おいしそうに召し上がっていた。
もう大丈夫、最後まで見ていただけそうだ。
クライマックスには新婦であるお孫さんと一緒に披露宴会場を歩くシーン。
お孫さんがどうしても「おばあちゃんと一緒に歩きたい」という希望で、
特別に組み込まれた演出だった。
20年前のあの頃と一緒だっただろうか・・・。
背の高さが逆転し、車いすにはなったけれど、一緒に手をつないで歩ける日がきたのだ。
2人ともとてもうれしそうに見えた。
最後は新郎新婦からの感謝の手紙。
今までの感謝の言葉がぎっしり入った手紙だった。
おばあちゃんとの思い出も、両親以上にたくさんあったのだ。
小さいころ、両親が共働きで学校から帰ってくると、いつも温かく迎えてくれたのがおばあちゃん。
寒い日も暑い日も、変わらず笑顔で迎えてくれたおばあちゃんに感謝を伝えたい・・・と。
一番後ろの席で小さくなった“ おばあちゃん ”は、そんな孫娘の手紙をじっと聴いていた。
見違えるほどきれいになった花嫁の姿をみながら・・・
車いすからみえた、孫娘は大きくみえたのだろうか?
ランドセルの方がおおきかったあの頃を思い出しただろうか?
帰宅途中
何度もコクコク頭を下げている、疲労はピークに達していた。
それでも何とか最後まで出席できた、無事でよかった。
施設に戻ると20時を過ぎていた、簡単に着替えをしてすぐにベッドへ。
長い一日が終わった。もうすでに横になった部屋の電気が消えた。
私たちはお孫さんからご本人への記念の品を棚に飾ってそっと部屋を出た。
“ 感謝 ”とかかれたその写真立ては祖母と孫娘の関係を物語っていた。
介護の必要な大切なご家族と
結婚式の喜びを分かち合うお手伝いをいたします。