ケアエスコートの池上です。病気だけど結婚式に出たいと希望されたお母様が一番印象に残っています。いろんなお客様がいる中で、私の心を打った新郎のお母様の姿をご紹介します。
挙式開始2時間前の会場正門。私たちは、こちらに向かっているお客様を、待っていました。
体調が悪くなっていないか。ここまでの道中で、疲れてしまうのではないか。準備で夜眠れなかったのでは・・・? と、色んな考えが、私の頭を、めぐっています。
その時、車が到着し、中から手を振ってくださった。
もうこの瞬間から、私の心臓がよろこびで震えあがります。
来れた!!!!
ご連絡をされたのは、ご本人自身で、新郎様のお母様でした。自分の体調が思わしくないので、ケアエスコートの説明をすぐに聞きたいとの事でした。
早速、ご自宅へ訪問しました。
私たちの訪問にあわせ、体調コントロールをし、出迎えてくれました。淡々と、冷静に、おだやかに、お話ししてくれました。
「あなたたちの手伝いがあれば、私は結婚式に出席できるのね!?」
お母様の懸念が、サーっとはれた瞬間でした。
当たり前のことなのに。このお母様の気持ちを胸に、私たちは当日までの準備にあたることになりました。
「結婚式に出席する」ということは決まっているのに・・。どうか、出席できますように・・と瞬間まで祈っていました。
冷たい風が吹く昼過ぎです。ご主人に支えられながら、お母様は車から降りていらっしゃいました。
早く横になりたいのかな…と、私の車椅子を押す足が、自然に早くなっていました。
控室について、あらためてお顔を見てみると、顔色も良く、、、というか、お化粧されて本当に美しく、ニコニコ、はつらつとしている姿に驚かされました。
と同時に、体調が良いことに、ほっと胸をなでおろしました。
それでも、油断はできません。いつでも、横になってもらえるよう、心の準備をします。
「自分の具合が悪くなって、結婚式の進行を妨げてしまうことだけは、したくない」というお母様の決意を、しっかりと胸に。
ロビーを通過していると、様々な方とすれ違います。お相手の親御さんやご親戚。
もうここから、結婚式の幕が開いています。何度も何度も繰り返される挨拶。ヘアセットもあるので、時間に追われ、目まぐるしくなってきます。
ドレスに着替えていただきましたが、挙式がはじまる前に横になってもらった方がいいかな・・・。ん~、、、と、迷う私。婚礼担当さんがとても気づかってくれ、「ぎりぎりの時間で呼びに来ますね」との言葉が、なんとも心強い。
お母様は、横にはならなかったけれど、しばしの静かな時間。目を閉じて、ふかーーく深呼吸をしています。
私たちの心配をよそに、お母様は、新郎新婦へずっとカメラを向けています。
新郎は、物静かな好青年。ゲストへのもてなしに忙しく、視線をお母様に向ける余裕はありません。親族紹介でも、フラワーシャワーでも。
男性だし、お母様を見るのは、照れくささもあるのかな・・・。
披露宴も佳境のさなか、お嫁さんのあと、新郎の中座の番になりました。
司会者が「ご新郎が中座のエスコートに選んだのは・・・・大好きなお母様です。」
お母様は、大きくまばたきをしたのち、最高の笑顔になりました。新郎からのサプライズ。
お母様の緊張が、一気にほどけていきます。
私は、新郎の心意気に、とろけていきます。
途中休憩として考えていた時間になっても、お母様は、新郎新婦のために、ご自分の役割を果たそうとしています。ついに、全てのテーブルの方への挨拶を成し遂げたのです。
私は心の中で、盛大に拍手を送っていました。
お化粧室へお連れするときに、お母様はうれしそうに、「息子の幼馴染が来てくれて、なつかしくて、話し込んじゃったわ。」
わたしはそれを聞いて、一気に気持ちが楽になりました。
それまでの間、お母様の体調のことがすごく気になって、心配で心配で。
「休んでもらわなきゃ。」とずっと気が張っていました。お母様の、「休むとそのまま眠ってしまいそうなので」との判断にゆだね、休むことなく、時間が経過していました。
でも、お母様は、とても幸せそうに、楽しそうに、結婚式の空気に包まれていました。
その息子様の幼馴染さんが、私に話しかけてこられました。
「お母さん、来れて良かったです。
あいつから、お母さんが今日は来れるかわからない・・って。ずっと心配してたんで・・。 元気そうでほんと良かったです。僕も心配してました・・・・。大丈夫そうですね。」
お礼を言いながら、私は心の中で呟いていました。
そうだよね。大丈夫だよね。大丈夫。
こんな素敵なお友だちと、お母さん思いの優しい息子さんに、囲まれているのだから。
お母様は、母としての役割をすべてこなしました。それも楽しみながら。茶目っ気たっぷりに「シャンパンも、ちょっと、いただいちゃったわ!!!」。
もう、まもなく、おひらきです。
長い列のあと、最後のゲストへ、にこやかにお礼を言い終えました。
お母様の表情は、しあわせそのもので、晴れやかに、澄み渡っていました。
帰り道
冬の夜風が私の頬をなでていきます。気温もだいぶ下がってきました。
寒いはずでしたが、わたしの心は、澄み渡った青空のようで、
そして温かい気持に包まれていました。
介護の必要な大切なご家族と
結婚式の喜びを分かち合うお手伝いをいたします。