ケアエスコートの池上です。私たちにとっても、とても素敵で楽しい思い出になったご祖父母のお話をさせていただきます。長い時間のサポートでしたが、とても心に残ったケアエスコートでした。
「・・・・だれのお孫さんが結婚するの?」
結婚式の朝のことです。
「結婚式か、たいへんだあ。・・・実は、、僕は、聞いていなかったんで、、、。」と、しょんぼりとつぶやく、おじい様。
わたしは、内心ちょっとドキドキでした。
このまま、「僕は行かない」宣言されたらどうしよう、、、、。
息子さんへ連絡を入れて、タクシーも待っててもらわなきゃ。それより電車の座席!緊急事態で次の便の席があるだろうか?わたしの頭の中のスケジュール表が、ぐるぐるまわっています。
わたしは、平静さを装ったまま、ハンガーにぶら下げてある礼服をお渡ししました。
おじい様の顔が、パッと笑顔に変わりました。「こんな洋服あったんだね?よかった!よかった!!」とおじい様はうれしそう。
わたしは、フー・・・と胸をなでおろし、安堵感とともに(何としても、無事に連れて行かなきゃ、守らなくては)との思いが、自分の中にふつふつと湧きあがってくるのを感じていました。
それから礼服に着替えをはじめた、ニコニコ顔のおじい様。それをみて、ニッコリなおばあ様と私たち。
おばあ様のほうは、どんどん支度が整っていきます。お化粧も、念入りに仕上げていき、お洋服を着替え終わると、鏡台の前に立っています。
そのお顔は、本当に嬉しそう。
(ああ、やっぱり息子様ご夫婦に、洋服を選んでもらってよかった。)
と、わたしは、2か月前の息子様ご夫婦とお会いした日を、思い出していました。
息子様ご夫妻とお会いした日。それは、快晴の青空が広がる、気持ちの良い日でした。私たちは、息子様のお宅を訪ねていました。
打合せがひと段落したところで、おばあ様のためのお洋服を並べると、息子さんご夫婦は、そろって
「お母さんは、この色でしょ!!」
と迷わず、シックな一着を選ばれました。
おばあ様は、その洋服に着替え、じっと満足そうに鏡をみつめていました。
おふたりの準備が整いました。
せっかくなので、お写真を。二人に並んでもらうと、おじい様は、ちょっとめんどくさそうな、照れくさそうな表情で、おばあ様へ寄り添われました。
よかった~・・・
ジーンとしている間もなく、タクシーが到着です。
これから5時間かけて、さぁ東京の結婚式場へ出発です。
まだ、あたりは薄暗く、朝の闇に包まれ、静まり返っています。高速に入ると、街全体が目の前に広がります。街中キラキラ輝いていて、宝石箱をひっくりかえしたみたいです。
おじい様は、「ほら、綺麗だね~。(景色)これを観れてよかった!!!」
「きょうは、連れてきてもらってよかった!!」
って???
いつの間にか、きょうの行先は、外の夜景を見に行くこと、になってる?のかな?
それでもいいんです。何よりも、無事に行って帰ってこれれば。
おじい様との愉快な会話で、車の中が和みます。外がすこしづつ白んできました。
いい天気になるぞ~~。と気合を入れます。
おじい様とおばあ様にとって久々の遠出。
昨日の夜は、おばあ様はあまり眠れなかった・・・。とのこと。そういえば、先日もそう言ってたな・・・・。
結婚式の4日前、わたしたちは、おじい様とおばあ様を訪ねていました。
おばあ様は、
「なんだか考えるとあんまり眠れなくてね。遠くに行くので心配・・・」
と、わたしたちに教えてくれました。
ケアマネージャーもこっそり、結婚式が決まった時から、あんまり眠れていない事を、知らせてくれています。
でも、体調のことを心配する私たちと裏腹に、おばあ様の中では、眠れていないことは、二の次のようでした。
「お祝いですから、行かないと・・」
おばあ様の心は決まっています。
結婚式の当日のスケジュールを決めているあいだ、ずっと、お顔がよろこびで、ほころんでいました。長年連れ添っているおじい様と一緒に、お孫さんのため、遠くの結婚式へ行くことに何の迷いもありません。
おばあ様は、終始、そのきりりっとしたお顔で、おじい様へ視線を移します。わたしがこの人を連れて行くんだと言う、おばあ様の思いがこもった視線。
愛情たっぷりの視線。
タクシーの中で、電車の中で・・・
おじい様は、
「どこへ行くのか。」「どこへ連れていかれるのか。」「何が次に起こるのか。」
見覚えのない景色。内心はずっと不安・・・なのかもしれません。
それでも結婚式へ向かっていることをお伝えすると、必ず「ふっふっ」と、とうれしそうな笑顔になります。わたしたちも、ホッとします。まもなく東京駅です。
やってきました東京駅。
東京駅の人の多さには、いつも圧倒されます。今回は駅員さんが人をよけて進んでくれるので、安心です。
おじい様は、お疲れを感じさせず、しっかりとした足取りで、歩きながらポツリと仰います。「前に、どうも、ここは、来たことがあるな。」
何だか懐かしそうです。昔、出張で来たのかもしれません。遊びに来たのかもしれません。
改札を出ると、約束の時間ちょうど。運転手さんが駆け寄ってきてくれました。タクシーに乗り込みます。もうすぐ式場!!
到着です!!結婚式会場、エレベーターをあがります。廊下の角を曲がって、二歩、三歩、控室が近づいてきます。
「じいちゃん、ばあちゃん、これたね、よかったね、」お孫さんの一人が、手を振ってくれます。
とうとうたどりつきました。わたしは、ホッとしたのと同時に、ある言葉を思い出していました。
「父は、だれがだれか、わからないと思います。でも、父と母がそろって、親族に会えることは、もうないかもしれない。よろしくお願いします」
契約に伺った、2か月前。わたしたちは、息子さん夫婦に、この思いを託されました。はじめ、息子さんは複雑な胸のうちを語ってくれました。
父は僕の顔を見ても、誰だか、わからないかもしれない・・・
結婚式へ呼んで、楽しめるのか・・・・でも、来てもらいたい。
息子さん夫婦は、迷っていました。でも、その時、答えは決まっていました。
「こんな機会はもうないかもしれない。・・・来てもらいたい。」
わたしたちは、無事におふたりを、お連れすると、その日約束しました。
そして、きょう、今、目の前で、何十年ぶりかの再会を果たし、よろこびあっている、ご家族。私は、安堵と感動が渦巻きすぎて、どんな感情になっているのか自分でもわからなくなっていました。
みんなの大好きなおじい様。
写真が好きな、おじい様。お孫さんがしっかり血を受け継いで、かっこいいカメラをおじい様に見せにやってきました。何やら男同士会話が弾んでいます・・楽しそう。
親族紹介のときに、おじい様にも座ってあいさつしてもらえるよう、椅子が準備されていました。
ところが、「座って挨拶なんて何事か!」と言わんばかりのご様子。椅子を外してもらうよう、しっかりお断りしています。
お嫁に行くお孫さんに、そしてご新郎に、ご親族へ敬意をこめてご挨拶。丁寧な真心のこもったお辞儀でした。
おじい様は、むかし、何組もお仲人をされたそうです。さすがです。
結婚式って、そこにいる一人一人が優しさに包まれています。
なんだか、しあわせのお風呂にゆーったり浸かっているようだなあ・・・。
披露宴開始1時間近くが経ちました。ちょうど、曾孫さんが、キャンディの花束を、これから家族になる新郎へ、手渡していました。
おばあ様は一心に見つめています。
「あの子も、あんな小さいのに、無事にやり遂げて、式を盛り上げてくれて、たいしたもんだ。」
おばあ様は、もはや、呼ばれてそこに座っているだけではありませんでした。ゲストの方に喜んでもらっているか、総監督になっていました。小柄なおばあ様の背中でしたが、とっても大きく感じた瞬間でした。
そして、おばあ様は、高砂の花嫁姿のお孫さんをみて、何度もうなづいていました。
「これで責任を果たせました。」とつぶやきながら。
披露宴の中盤に差し掛かっています。新郎新婦が中座して、リラックスした雰囲気です。時計を見ると、電車の時刻が迫ってきていました。そろそろ帰る時間です。
支度にとりかかろうと、荷物をまとめていました。
その時、式場のプランナーさんが近づいてきました。
「せっかくなので、お色直しのドレスも観てもらいたいので、会場外で待っていてもらえますか。」思ってもみなかった提案。
せっかく遠くから来てもらったのだからと、進行状況を見て、急きょ予定を変えてくれたのです。おまけに、写真撮影のセッティングも完璧です。
(にくいね・・婚礼係さん・・やるね・・プランナーさん!!)私の心は飛び跳ねています。
高ぶる感情を抑えながら、取り乱さないように・・・わたしは、スタッフさんへお礼を丁重に伝えました。
華やかなドレスに包まれたお孫さん、すらっとカッコいい新郎、おじい様、おばあ様
みんな最高の笑顔です。
おばあ様は本当に嬉しかったのでしょう。「あのドレスは本当に似合っていた。よかった。」と、帰りの車中で何度も繰り返していました。
結婚式へ出席したおじい様、おばあさ様は、しあわせの空気に包まれています。
わたしたちを乗せてくれた運転手さんへも、伝心したのか、嬉しそうに運転しています。おふたりを気づかってくれ、駅に到着すると、改札で、帰りを待っていてくれた運転手さん。
ありがとうございました。
この家を出発したのは、きょうの朝だったんだ・・・。あれから、15時間が過ぎようとしていました。
おばあ様は、鼻歌でも歌いだしそうな軽快さで、いとまなく、荷物の整理をしています。
緊張と心配から解放され、ハレバレとした表情です。わたしたちにも、そのお気持ちが伝わってきます。
わたしたちは、このチャーミングなおじい様とおばあ様のおかげで、なんと、たくさんの優しさに出会えたのだろう。
エスコートを終えた帰り道、私たちはすでに、おじい様とおばあ様ロスです。
おふたりが仲良くおしゃべりしている風景が、私の心に鮮明に刻印されています。
わたしは、お二人とおしゃべりしたい・・・・衝動にかられています。
そして、あの言葉を、また思い出していました。
「父と母がそろって、みんなに会える機会は、もうないかもしれない・・・。」
お連れできて、よかった。
介護の必要な大切なご家族と
結婚式の喜びを分かち合うお手伝いをいたします。