ケアエスコートの池上です。お孫さんの披露宴に出席したお祖母さまのお話です。
親族紹介の控室でのことです。
真っ白なドレスに身を包んだお孫さんが、静かに入ってきた瞬間、おばあ様を見つけました。
「おばーちゃーーん!!」
ハイタッチならず、おばあ様がそろそろとあげた胸元の手へ、タッチ。そのハイカラな今っぽい挨拶が目の前で繰り広げられました。
おばあ様は、「や~~ッ。」と言って、顔を抑えて下を向いてしまいました。
はじめは、「具合悪くなっちゃったかな・・・??」と思い、慌てました。
「大丈夫・・・です・・か?」と言いかけると、おばあ様は、感極まって、泣いているではありませんか。
目元を押さえているハンカチと一緒に、肩も揺れていました。
あーー。やっぱり嬉しかったんだ・・・。
おばあ様の心はよろこびで舞い上がっていたんです。
その姿は、3週間前におばあさまを訪問した時の印象とまるっきり違っていました。
わたしたちは、おばあ様に会いに行きました。緊張もあってか、表情が何だか曇っています。訪問して10分もしないうちに、気分が悪くなるといけないので、横になってもらうことにしました。
かなり・・・体力がない感じでした。
2時間30分の披露宴、大丈夫かな・・・不安がよぎります。ケアマネージャーに、日常の様子を細かく伺います。
そんなおばあ様でしたので、この日まで娘さんは迷っていました。挙式か披露宴。体力的に両方は無理。どっちがいいか、迷っていました。
食事、たべれるかな・・食べれなくても見て楽しめる。
具合悪くなったら、途中で帰ればいい。と娘さんは、ポジティブに考えていらっしゃいました。そして考えた末に、披露宴へ出席することに決まりました。
帰りがけに、おばあ様に「当日きますからね。お手伝いしますからね。」
と声はかけますが、お顔は曇ったままでした。
きょうは、ご気分はどうかな・・と不安をかかえたまま、お部屋の扉をノックしました。
おばあ様は、車椅子に座って、先日より、やや明るい表情をしていました。
出掛けるのは、問題なさそうだな・・と支度にかかります。
出発の前のおばあ様の部屋で、娘さんがご準備くださった、婚礼のドレスに着替えます。ブローチの位置も、もう少し上の方がいいかな。となおします。
「お化粧・・・ずっとしてないのよ・・・」と、おばあ様。
でも、アイシャドウのカラーパレットをのぞいている、おばあ様の顔の嬉しそうなこと。
選んだのは、淡い紫色。口紅は、ピンクを。髪もカーラーでふんわり巻いて。
段々お支度が整っていきます。カーラーを外して、髪を整えます。出来上がりです。
大きな鏡を見ています。「いいわね。」とニッコリ、笑みがもれています。
と~っても、きれい。その年齢にはぜーったい見えない。キレイで、物腰の柔らかな、おばあ様。
でも、口数が少ないので、具合が悪くなっても、我慢しちゃうかな・・?とちょっと心配です。
ちょうど、コートを着ていると、タクシーのドライバーさんが部屋をノックしてくれます。リクライニング車椅子へ乗り換え、結婚式へ出発です。
車の中では、思った以上に体調はよく、昔、海へよく行って楽しかったことを思い出して、なつかしそうに話してくれます。
子育てしていた、昔のご自分を思い出してうれしそうな笑顔。しっとりと、昔話を聞かせていただいている間に、到着です。朝よりももっとお顔色が良くなっています。
おばあ様は、披露宴からの出席。そろそろ挙式が、終わるころでした。ロビーのふかふかの絨毯の上を、ゆっくり歩いていました。
ところが、車椅子に目を止めて、スーツ姿の女性が声をかけてくれました。
ご両家の名前を告げると、インカムの向こうで、何か起こった?ようになり、案内係のその方がソワソワしはじめました。
「ここで少々お待ちください・・・」と、あっちへ行ってしまいます。
(控室に通してくれるって聞いているのに・・・どうしたのかな?)と思っていると、5分も待たないうちに、はや足で、スーツ姿の男性が近づいてきました。
婚礼担当さんです。
「集合写真に間に合いそうなので。ご案内します。」と。
「・・・・・・・・・・・・。」
キョトンとしている暇はなさそうです。慌てながらも、冷静に、婚礼担当者に遅れを取らないよう、ついていきました。
「こちらです・・・」
扉の向こうには、新郎新婦を真ん中にして、ご親族が勢ぞろいです。おばあ様のスケジュールの中には、当初入っていません。
急きょ変更することが、どれだけ手間がかかることか。
わたしたちを案内するために、2名の婚礼担当さんが動いてくれたのです。感激です!!
写真撮影が始まります。
あっ・・そうだ、イヤリング!
おばあ様の大切な真珠のイヤリング。
落とすといけないので、披露宴がはじまる前にしましょう。と鞄にしまってきました。
慌てて、右耳・左耳とイヤリングをつけます。一段と華やぎました。
披露宴会場は、ゲストが多く、テーブルとテーブルの間が狭くなっています。下見の時に、車椅子でも通れる場所か、車椅子のまま席につけるか、打合せてありました。
開宴後まもなく、乾杯のあいさつが、はじまりました。
おばあ様が、なんだかモソモソしています。おしりが痛いようです。何回か座りなおしてみましたが限界でした。
車椅子はやめて、みなさんと同じ椅子へ座ってみました。
でも・・おばあ様の身体が傾いてしまいます。娘さん・おばあ様・スタッフの順で座り、肩をキュッと寄せ合ってみました。おしりの痛みは、直ぐなくなりました。
ウン、これなら大丈夫。。
車椅子に座っているよりも、娘さんとの距離が縮まりました。親子仲良しで、おしゃべりがつきません。
でも、「お尻が痛い」と教えてくれてよかった・・ほっと一安心。
リクライニング車椅子。
車での道中、姿勢を90度のまま揺られていくのはつらいだろうと、事前に相談していました。車の中は、倒して横になっていけるので、本当に楽でした。
でも、やっぱり慣れていない車椅子だと長時間は難しいのでした。
どうしたら、快適かな・・。また痛くならないかな・・・。今の椅子で大丈夫かな・・。
楽しんでいるのかしら・・・? リラックスしているかな・・・。
私たちは、おばあ様の気持ちに近づけてるかな。
披露宴がどんどん進んでいきます。。。
本当に気さくなお孫さん。
ウェディングケーキをカットした後も「おばあちゃん大丈夫?」
テーブルラウンドで近くを通る時も「おばあちゃん、疲れてなーい。まだ、中盤だからね?」と、優しさがあふれています。
新郎新婦の中座。打掛にお色直ししたお孫さんが入場してきました。
おばあ様は、「あの子は着物が好きでねえ・・・」とお孫さんとの思い出が、たくさん蘇ってきたのか、しばし一人の世界に浸っています。
隣では「お母さん、また泣いちゃった・・もうそんなに泣かないで。」と、娘さんが優しくおばあ様の肩を抱いています。
もう感無量です!!!
訪問した日・・・お孫さんの結婚式だからうれしいはずなのに・・・どうして、表情が曇っていたのかな。
(行けるかどうか、、、娘たちに迷惑をかけないか、、、途中で気分が悪くなったらどうしよう、、、、?)
心配と不安で、気持ちが、張り裂けそうだったんですね。
今は、なんて晴れ晴れとした、思いやりにあふれた眼差しで、お孫さんを見つめているんだろう。楽しんでいるんだろう。
長く患っていた時期もあったおばあ様。
おばあ様をずっと心配していたご親族の眼差しは、新郎新婦、そして、おばあ様に常に向いています。
披露宴の間中、みんなが立ち替わりに、おばあ様を囲みます。みんな、おばあ様を独り占めにしたくて。
おばあ様の表情から、しあわせがあふれ出しています。
帰りの車の中、おばあ様はぐっすり眠っていました。
お孫さんの夢でもみているのでしょう。
わたしたちは、そっと静かに、そのしあわせで満たされた寝顔を見つめていました。
介護の必要な大切なご家族と
結婚式の喜びを分かち合うお手伝いをいたします。